来院される方
ECTセンター

当院のECTセンターについて
当院では、平成18年5月にサイン波治療器によるECT(電気けいれん療法)を行い、平成19年4月からはパルス波治療器によるECTを行ってきました。
平成25年4月には、ECTの専用治療室を備えた「ECTセンター」を開設し、平成25年度から令和5年度までの間に延べ2900件以上実施しました。
ECTは、薬物治療に抵抗性のあるうつ病や統合失調症などに適用される治療方法です。実施にあたっては、患者さん本人・ご家族様への十分な説明を行い同意をいただいたうえで、経験を積んだ医師と看護師のチーム医療のもとに安全かつ適切に実施します。
ECTとは
ECTは、Electro Convulsive Therapyの略称で、日本語では「電気けいれん療法」と呼ばれています。頭部に電気を流し、けいれんを起こすことで、脳の機能を改善する治療法として1930年代に開発されました。現在では、全身麻酔と筋肉のけいれんを起こさなくする薬を使用して、全身けいれんに伴う骨折や脱臼などを予防しながら電気けいれん療法を行うことが一般的です(mECT;修正型電気けいれん療法)。当院でも、修正型電気けいれん療法を行っていますが、呼称はECTとしています。

対象となる患者
ECTが適応される疾患は、薬物療法での改善効果が見られない、うつ病・統合失調症・躁うつ病・混合性感情状態・緊張病などと言われています。
また、自殺の危険性が高い場合や焦燥を伴う重症の精神病で早急な対応が求められる場合など、さらに高齢者や妊婦など薬物を十分に使用できないと考えられる場合などにも適用されます。
危険性や副作用は
- ECTに関連した死亡は1万人に一人と評価されています。多くの精神疾患治療薬よりも、ECTによる死亡や重症合併症の危険性は低いようです。安全性の面から、ECTは身体合併症を持つ患者さんの場合に進められます。
- 一般的な副作用として、治療後覚醒するときにもうろう状態となることがありますが、通常は1時間前後で改善します。
- 頭痛や吐き気が起こり数時間続くこともあります。
- 記憶障害が出現することがあります。治療前後のことを思い出しにくくなるタイプの記憶障害では障害の期間は短期間に留まり、治療終了後に2~3週間も続くことはありません。まれに過去の出来事について記憶の欠損が生じる場合がありますが、治療終了後改善します。しかしながら、特に治療後まもなくの出来事にはずっと思いだせないこともあります。
- 副作用の出現頻度及び程度は、患者さんによって異なります。
ECTセンターの設備
ECT施術室

当電気けいれん療法の専用治療室です。パルス治療器(サイマトロン)を使用してECTを実施します。

パルス治療器(サイマトロン)
2002年に認可された、副作用の少ない治療器。電極から短時間(数秒)に5~100ジュールのエネルギー量の電気刺激を加えると、脳にてんかん発作と同様の変化が起こります。

生体情報モニター
施術中及び施術後回復室での静養状態の患者の心電図・呼吸・動脈血酸素飽和度など、患者の生体情報をモニタリングします。
回復室

ECT施術後は、回復室で呼吸・脈拍等が安定するまで、30分~1時間程度、静養していただきます。終了後の飲水テストに問題がなければ食事をとることができます。
治療の流れ

主治医からの説明
- 治療についてのご説明を患者・ご家族に行います。
- 説明後、同意書に署名をお願いします。

施術前の検査など
- 事前に、血液検査・心電図・頭部CTなどの検査を行い、全身の状態をチェックします。
- 治療前夜から絶飲食となります。
- 治療の前には点滴をして治療室に向かいます。

ECT施術
- 麻酔薬と筋弛緩剤を投与し、眠っていただきます。
- 全身麻酔の状態で、前頭部に必要最小限の電気を流します。

施術後の安静
- 施術後は、回復室で安静にして状態を確認します。
受診のご案内
- 当院でのECTは、当院の入院患者に対して行います。外来でのECTは行っておりません。
- 当院では、地域の他の医療機関と連携して必要な患者様にECTを実施するため、地域連携の取組を進めています。他の病院・診療所・クリニックを受診中の方が当院を受診される場合には医師の紹介状が必要となりますので、かかりつけの主治医を通じて、当院ECTセンターへお問合わせください。
注意事項
- 心筋梗塞などの心臓疾患、器質性脳疾患、重度の呼吸器疾患などを現在治療中あるいは既往症がある場合には、ECTの実施が困難なことがあります。 事前に主治医にご相談ください。
- ECTの副作用として、頻脈・血圧上昇・頭痛・一時的な物忘れなどが生じることがあります。
- ECTの前処置があるため、施術前日からの入院をしていただくことが必要になります。
ECTに関するよくあるご質問
Q1.電気けいれん療法(ECT)とはどんな治療ですか?
ECTは重い精神障害の方に行われる治療です。たとえば、重いうつ病や躁病あるいは緊張病(統合失調症のあるタイプ)などです。
普通、ほかの治療法ですべて効果が見られなかった場合や、以前にこの治療法でよくなった方に対して行います。
ECTでは、治療器からごく短時間、こめかみにつけた電極を通して電流が脳に流れ、発作(けいれん)を起こさせます。「電気けいれん療法」と呼ばれる理由です。
慎重に行いますので、患者さんがけがをしたりすることはありません。もちろん、麻酔薬と筋弛緩薬(筋肉の緊張をゆるめる薬)を使います。治療中は麻酔薬で眠った状態になります。その間、けいれんが出ますが、20秒から50秒でおさまります。
治療そのものはECTセンターの専用治療室で行います。治療回数は通常6~12回ほどです。
Q2.ECTはどんな時に行いますか?
ECTは、通常以下のような場合に適用されます。
- 重いうつ病に苦しんでおり、薬物療法が無効ないしは部分的効果しかない場合。
- 病気がもたらす深刻な苦痛で働けなくなった場合。
- 抗うつ薬が試されたが、副作用がでてやめてしまい、ほかの治療法も効果がない場合。
- 食べることも飲むこともせず、生命を維持するための手段も拒否するため、生命が危険にさらされている場合。
Q3.ECTを受けるときのことをくわしく教えてください。
ECTの前、6時間は食べたり飲んだりできません。麻酔を安全にかけるためです。
ECTを始める前に担当の医師がいくつかの検査を行って、安全な麻酔がかけられるようにします。次のような検査です。
- 血液検査
- 血糖値、腎臓と肝臓の働きを見る検査
- 電解質
- 胸のレントゲン(必要であれば脊椎のレントゲン)
- 心電図
- 頭部CT(必須ではありません
1.看護師が、心臓の動きや血圧、血液中の酸素濃度などを測るための装置を患者さんのからだに取り付けます。
また、脳波を測定するために脳波計の電極を取り付けます。
2.酸素マスクをつけます。
3.点滴をして、そこから麻酔薬を入れます。3~5分で、眠ってしまいます。
4.麻酔薬で眠ったあとに筋弛緩薬が入ります。呼吸を助けるために酸素も使います。
5.寝入ったあと、患者さんのからだの緊張が消えたら、ECTを行います。
筋弛緩薬はすぐに(2~3分ほど)効果がなくなります。患者さんが麻酔から醒めた時にはすでに治療は終了しています。
目が覚めたことが確認されたらすぐに回復室に移り、30分ほど休んでいただきます。
回復室では看護師が血圧をはかり、患者さんに目覚めたときの様子をうかがいます。そのとき酸素マスクをつけていることもあります。
血液の中の酸素濃度をはかるために指に小さなモニター(パルスオキシメーター)をつけます。
患者さんが目覚めるのに、しばらく時間がかかるかもしれません。また、最初は自分がどこにいるかわからなくて混乱するかもしれません。すこし不快に感じることもあります。30分もすればこれらは消えてしまいます。患者さんの状態が安定して病棟に戻りたいと感じたら、その日の治療は終了です。
通常、治療は開始から終了までおよそ30分から45分といったところです。
Q4.ECTを受ける回数や期間はどうなりますか?
ECTの施行回数は多くて週に2〜3回です。効果が出るまで3~4回の施行を要します。4~5回の治療で顕著な改善が見られます。
治療終了までにどれくらいの施行回数を必要とするかは予測できませんが、平均6~8回の施行が必要とされています。
患者さんによっては10~15回実施することもあります。15回行っても反応が見られない場合、ECTは無効と判断します。
Q5.ECTはからだにどんな変化をおこしますか?
ECT治療器から伝わる電流は、脳のすべての神経細胞を一度に興奮させます。その興奮が全身の筋肉を刺激しますので発作のように見えます。
この脳神経細胞の興奮が数種類の神経伝達物質を放出してうつ病や統合失調症を改善します。抗うつ剤や抗精神病薬のように、 ECTはうつ症状をやわらげ、精神症状をコントロールします。
ECTは心臓や血圧に影響を与えますが、ECTを行った後の患者さんからの最も多い訴えは短期・長期記憶の喪失です。これらは患者さんを悩ませる問題です。
Q6.ECTはなぜ効果があるのですか?
ECTがなぜ効果があるのか、その理由はまだよくわかっていませんが、いくつかの理論が考えられています。
精神疾患が脳の化学物質(神経伝達物質)の異常によって引き起こされることは確かであるとされています。脳の神経伝達物質はわたしたちの正常な感情を調整する役割を果たします。多くの精神疾患ではこの調整機能が不具合をきたしています。ECTは神経伝達物質を放出させ、この調整機能の不具合を改善させると考えられています。最近の研究によるとECTは脳のあちらこちらで血管新生を促すともいわれています。
Q7.ECTの副作用はどんなものですか?
どんな治療にも副作用があるように、ECTにも副作用があります。軽度のものもあれば、もっと強い副作用もあります。
短時間で消失する有害作用
ECTの直後に頭痛・筋肉痛・めまい・嘔気・嘔吐・恐怖感・錯乱をみることがありますが、数時間以内に消失します。
ECTの直前・直後の記憶が一時的に失われることがあります(健忘)。全身麻酔には危険な副作用がありますが、出現することはまれです。
深刻な副作用で死亡する場合もありますが、その頻度は5万回に1回程度で、出産に伴う死亡の危険性より少ない回数です。
長期間続く副作用
最も多い副作用は記憶喪失です。ECTを受けた患者さん10人に1人くらいの割合で発生します。
最近のいくつかのできごとを忘れてしまいますが、ECTが全部終了して数週間たつと、失われた記憶がよみがえってきます。
この副作用にECTそのものがどれくらい関係しているのかは明かではなく、うつ病自体や他の要因が関係しているかもしれません。
患者さんによっては性格の変化が気づかれることもあります。